Categories
column
人的資本と金融資産:世界株式100%での資産形成の合理性

 


資産形成というと、多くの人は預金や株式、債券といった「金融資産」のバランスをどう構成するかに目を向けがちです。しかし、人生を通じた資産形成を考えるうえで、もう一つバランスを考えるべき重要な資産があります。それが「人的資本」です。


人的資本という概念は、ノーベル経済学賞を受賞したゲーリー・ベッカーによって提唱されました。教育や経験、スキルといった形で蓄積された知識や能力(=人的資本)を、労働市場に投資することで収入を得るという考え方です。つまり、私たちが働いて得る給与は、人的資本からのリターンなのです。


資産形成においては、人的資本と金融資産の双方からリターンを得て資産を積み上げていくことになります。若い頃は、人的資本が豊富で労働市場からのリターンが収入の中心になりますが、人的資本の価値は年齢とともに徐々に減少していきます。一方で、金融資産は時間をかけて積み上げていくものであり、老後にはそのリターンが生活の支えとなります。以上のことから、人的資本と金融資産のバランスは非常に重要であり、金融資産の構成も、人的資本がどの様な特徴を持っているかを踏まえて考えていく必要があります。


日本人の場合、多くの資産形成層の人的資本は「円建て債券的」と言えます。毎月安定した給与が入り、退職時にはまとまった退職金が支払われる。定期的にクーポンが入り、償還時に元本が返ってくる債券と類似しています。さらに、すべて円建てであるという点も見逃せません。


このような人的資本を持つ日本人が、金融資産として何を選択すべきかを考えると、「世界株式100%」という選択肢が浮かび上がります。株式は、長期的な成長が期待できる資産として債券的な人的資本を上手く補完します。特に世界株に投資することは、地域的な分散と幅広い投資機会を得るうえで有効です。世界株式は為替の分散効果もあり、円建ての人的資本との相性が良いでしょう。


人的資本と金融資産のバランスを意識しながら、長期的な視点で資産形成を行うこと。それが、安定した人生設計への第一歩となります。若い頃の人的資本が金融資産に対して非常に大きいことを考えれば、金融資産の十分な成長を実現するためにも世界株式を100保有することが正当化されます。「世界株式100」というと偏ったポートフォリオに聞こえるかもしれませんが、人的資本とのバランスを考えれば、多くの場合、合理的な選択肢となり得るでしょう。