column 夜明け前が一番暗い

「夜明け前が一番暗い」。シェイクスピアの『マクベス』に由来するこの言葉は、長い歴史の中で多くの人々に引用されてきました。夜を困難、夜明けを明るい未来に例えたこの表現は、物事が好転する直前にこそ最も苦しさが増すという、人間の心情を見事に捉えています。

 

興味深いことに、この原理は株式市場にも驚くほどよく当てはまります。市場が大きく調整し、不安と悲観がピークに達した直後に、強烈な上昇局面が訪れることが多いことが知られています。投資家にとって辛い時期こそが、実は次の上昇の“夜明け前”であることは過去に何度も確認されています。

 

たとえば、過去20年間の全世界株式市場を振り返ると、上昇率トップ10の日の多くが、同じ年、あるいは同じ月の大幅下落直後に発生していることが分かっています。2008年のリーマン・ショックや、2020年のパンデミック初期がその典型例で、株価が暴落する局面で大幅な上昇を記録するケースが多く見られました。

 

さらに重要なのは、こうした上昇局面を逃した場合のインパクトです。もし投資家が恐怖からマーケットを離れ、上昇率トップ10日間を保有していなかったとしたら、20年間の長期投資であっても、最終リターンが半分以下に落ち込む可能性があることが示されています。

為替相場を気にしない長期投資のすすめ

※全世界株式はMSCI ACワールド・インデックス(税引前配当再投資、円ベース)の日次リターンを用いて算出。

※上記は全世界株式に継続投資を行なうなかで、上昇率上位の日に投資をしなかった(当日の値動きなし)と仮定した場合の投資成果を示しています。

※表中の金額は、当初元本100万円を投資したと仮定して試算した場合の各計算期間の成果(費用は考慮せず)。

出所:LSEGのデータをもとにキャピタル・グループが作成

この事実は、タイミングを見て市場に出入りすることが極めて難しいだけでなく、ほんの数日市場から離れただけで、長期の資産形成に大きな差が生まれ得ることを意味します。

 

「市場が暴落しているから一度売って様子を見よう」という判断は、一見合理的に見えるかもしれません。しかし、データが語る真実はむしろ逆です。暴落の後こそが最も大きなリターンの源泉であり、それを享受できるかは、継続的に市場に居続けられるかどうかにかかっています。

 

結局のところ、投資家に求められるのは、短期変動の恐怖に負けずに長期の視点を持ち続ける勇気です。夜がどれほど暗くとも、必ず夜明けはやってきます。そして投資の世界では、その夜明けは突然訪れます。市場の「夜明け前の暗さ」を恐れずに、静かに、着実に、継続して投資を続けること―それこそが、長い時間を味方に付ける最も強力な戦略なのです。