はじめに
地政学的リスク、欧米金利の急激な上昇などさまざまな不透明要因が存在したにもかかわらず、大方の予想に反して2023年の日本株式市場は大幅に上昇し、TOPIXは33年ぶりの高値を記録した。米国経済の想定を上回る堅調さを背景に円安が進行し、海外利益の貢献が高まった。東京証券取引所による資本コストや株価を意識した経営の実現への要請、アクティビズムの高まり、機関投資家によるエンゲージメントの深耕もあり、上場企業における企業価値向上への取り組みが大きく進展した。
近年、日本企業の収益性はすでに改善傾向にあったが、長らく注目されることなく日本株は割安のまま放置されてきた。ROEの絶対水準は欧米に比べまだ低いものの、全体としての収益性は引き続き改善傾向にあり、実際、直近10年のEPSの伸びを見ても日本は米国に次ぐ2番目に位置していることが確認できる。
こうした収益性の改善に加え、2023年には30年ほど続いたデフレーションからの脱却の一歩を踏み出し、ガバナンス改革など企業行動に構造的な変化が見られ始めたことが、海外投資家を中心に日本株式に大きく関心が寄せられた背景と言える。円安は輸出企業等の企業収益にプラスとなるだけでなく、企業が日本に生産拠点を回帰させる誘因となっているほか、地政学リスクの高まりも相まって海外企業にとっても拠点を日本にも持つ価値が高まっている。商品価格の上昇や、円安が輸入物価上昇を通じてもたらした外生的インフレがリフレーションの最初のフェーズとすると、ここ下では、賃金上昇、サービス価格の上昇を伴った内生的なインフレ、フェーズ2へとつながりつつある。