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山中 伸枝
確定拠出年金の税制優遇制度の理解と活用法
山中 伸枝
株式会社アセット・アドバンテージ代表取締役

2022年の年金改正の主旨は「より多くの人がより長く多様な形で働く社会へと変化する中で、長期化する高齢期の経済の充実を図るため、(中略)確定拠出年金の加入可能要件の見直し等の措置を講ずる」と発表されています。今回の改正では「適用拡大・繰下げ年齢の拡大、在職老齢年金の見直し」等を掲げ、それに伴い確定拠出年金(以下DC)加入可能年齢を65歳まで引き上げます。


4月からのDC加入可能年齢の引き上げは「再加入」も認めます。例えば、現行制度の元、個人型確定拠出年金(以下iDeCo)に加入していて60歳となりそのまま運用指図者として運用のみをしていた人も、公的年金被保険者(第1号であれば任意加入者、または第2号被保険者)であればiDeCoに再加入し積立を継続できます。掛金は全額所得控除ですから、再加入に意欲を示す方も少なくないでしょう。ただし、iDeCoの老齢給付をすでに受け取ったという方は対象外です。


一方企業型確定拠出年金(以下企業型)の老齢給付を60歳で受取った方は、iDeCoへの再加入が可能です。従って、定年時にDCを一括で受取り退職所得控除を使い切ったという方も、iDeCoに再加入をすることで65歳まで積立を継続しさらに退職所得控除を200万円作ることが可能になります。


またDCの受取り可能期間も70歳から75歳に延長されます。公的年金を繰り下げるのであれば、その間の生活資金としてDCを分割で受け取ることもできます。公的年金等控除が適用されるので税金も圧縮できます。DCは取り崩しの最後まで運用益非課税であることも魅力です。


10月からは企業型加入者のiDeCo併用加入が容易になります。現在iDeCoの加入者数が約200万人であるのに対し、企業型加入者は約750万人以上ですから、大きな改正ポイントです。


現在企業型加入者は原則iDeCoに加入ができません。これは企業型の会社掛金上限が法律上月5.5万円(他の企業年金と併用の場合は2.75万円)となっており、手厚い支援があると考えられているからです。しかし実際厚生労働省の資料では、会社掛金は、5,000円未満が27%、5,001円以上10,000円未満が23.5%と発表されています。一方、企業年金がない会社にお勤めの会社員はiDeCoに月2.3万円の拠出が可能ですので、会社掛金が少ない企業型加入者はこれが不満の種でした。


そこで整備されたのがマッチング拠出制度です。会社からの掛金に個人の掛金を「マッチ」させることでより積極的に老後資金作りに資金を振り向けることができます。もちろん個人掛金は全額所得控除になります。しかしマッチングでは、個人掛金の額は会社掛金の額を上回ってはいけないとの制約があるため、実際に利用者はそれほど増えていません。


そこに新たな選択肢として2017年に導入されたのがiDeCoの併用加入です。しかし企業型の規約変更を必要するためこれもまた普及はイマイチでした。それらを踏まえ、2022年10月からは規約変更不要で企業型加入者すべてが月2万円を上限にiDeCo併用加入が認められます(ただし会社掛金との合計が5.5万円以下。企業年金がある場合は1.2万円かつ合計2.75万円)。


これはマッチング拠出制度がある会社の加入者も対象となります。例えば会社掛金が1万円だとマッチできる金額は1万円が上限ですがiDeCo併用であれば2万円まで積立ができます。つまりマッチングより多くの金額を、税制優遇を受けながら運用できるのです。


一方会社掛金2万円の場合、マッチングでもiDeCo併用でも同額の掛金拠出が可能です。どちらを選ぶのかは加入者の判断ですが、前者は手数料を会社が負担しているので、そこにメリットを感じる人も少なくないはずです。しかしここで問題となるのが、企業型の運用商品ラインナップです。制度導入から相当の年数が経過し競争力を失った投資信託をそのままにしている会社もあります。これまで企業型加入者は、いわば外の世界を知らない井の中の蛙状態でしたが、iDeCo併用加入による選択肢の広がりで、アップデートされた運用商品を知れば知るほど企業型の運用商品の見直しを要求してくることが考えられます。当然高すぎるコストは加入者の利益を侵害するものですから、会社としても対応しなければなりません。


残念ながら企業型は大企業を中心として普及してきた制度です。制度の導入と維持にコストがかかるので中小企業が取り入れにくい側面がありました。しかしこれではせっかくの税制優遇制度も活用できる人に偏りができるため、2018年中小事業主掛金納付制度(以下iDeCo+)が始まりました。これはiDeCoに加入している従業員に会社が掛金を上乗せ拠出してあげる制度です。会社掛金は企業型と同様全額損金計上ができることがメリットです。一方企業型と異なり、導入や維持にコストはかからないので、負担感なく始めることができます。もちろん会社が掛金を拠出してくれれば従業員のiDeCo加入への意欲にもつながるでしょう。


このように今回の年金改正により、DCはますます魅力的な制度に変わろうとしています。拠出時・運用時・受取時にそれぞれ税制優遇がある仕組みはDC以外にはありません。もちろんこの優遇は単なる大盤振る舞いなのではなく、公的年金の補完としてDCを最大限利用して資産形成をしなければならないのだという危機感の表れでもあると考えます。


国の制度であるDCは、金融サービス提供者から見るとキャッシュポイントがあまりないため、これまで「儲けにならない」と積極的に取り組んでこなかったのが実情でしょう。しかし、人生100年時代を見据えた顧客本位の業務運営とは何か、改めて対峙すれば、DCを抜きにお客様へのサービス提供はできないのではないかと思います。


企業型を導入している会社へは、運用商品ラインナップの適正化のご提案、企業型加入者へはiDeCo併用加入のご案内や定年後のiDeCo再加入のお知らせ、中小企業へはiDeCo+の導入で福利厚生拡充のご紹介、そしてそこからさらにより豊かな暮らしのための資産形成が拡大していくと考えれば、金融サービス提供者にとってもビジネスの拡大となるでしょう。高齢化により、金融マーケットの縮小を嘆く声もあるようですが、これからは確定拠出年金をベースにマーケットを育てることも必要かと思います。



山中 伸枝 株式会社アセット・アドバンテージ代表取締役、心とお財布を幸せにする専門家 ファイナンシャルプランナー(CFP®)、FP相談ねっと代表、一般社団法人公的保険アドバイザー協会理事。1993年米国オハイオ州立大学ビジネス学部卒業後、メーカーに勤務。これからはひとりひとりが、自らの知識と信念で自分の人生を切り開いていく時代と痛感し、2002年にファイナンシャルプランナー(FP)として独立。年金と資産運用、特に確定拠出年金やNISAの講演、ライフプラン相談を多数手掛ける。著書に、『50歳を過ぎたらやってはいけないお金の話』(東洋経済新報社)、『ど素人が始めるiDeCo(個人型確定拠出年金)の本』(翔泳社)などがある。


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