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大江 加代
積み立ては資産形成の最強手段
大江 加代
確定拠出年金アナリスト

資産形成は積み立てが基本


お金だけで幸福にはなれませんが、自分と自分の大切な家族が暮らしていけるだけの資産は持っておきたいものです。そして資産といえるだけのまとまったお金を準備していく最強の方法は何といっても「積み立て」だと思います。サラリーマンの場合は、勤務先の会社の「天引き」も、もちろんこれに含まれます。


最強の理由は3つあります
   1.  手間がかからないこと
   2.  メンタルアカウンティング
   3.  投資とも相性が良いこと


ひとつひとつその理由をご説明しましょう。
まず、資産形成は時間をかけてコツコツと行っていくものですから、その都度手間がかかるようでは嫌になって継続できません。1回手続きしたら何もしなくても続くこと、つまり続けられること、これはこの仕組みの大きなメリットです。


2つ目の「メンタルアカウンティング」というのは、「心の会計」とも呼ばれているとおり、積立するお金が給与から切り離されることによって心の中で別会計となることを意味します。つまり、積み立てたお金は最初からなかったものとして残ったお金で暮らすことに徐々に慣れていき、結果として積み立てがストレスなく継続できてしまうというメリットです。会社の財形貯蓄を入社の時に申し込みしてすっかり忘れていたけれども、結婚するときや家を買うといった時に確認してみたら、まとまったお金になっていてありがたかったという経験を多くのサラリーマンがお持ちだと思います。安定した収入があるサラリーマンにとって天引きは資産形成の王道です。


3つ目の投資と積み立てについては、「ドルコスト平均法」という、一定の金額で価格が変動する投資信託などの金融商品を継続的に購入すると、高いときには少なくしか買わず安いときには多く買うことになるので平均購入単価が下がり、売る時に利益が出やすいというメリットが一般的には言われます。しかし、私はそれだけではないメリットがもうひとつあると思っています。投資というのは安く買って高く売ると利益が出ます。当たり前ですよね。しかし、だからこそ、人間は投資をする際になるべく安く買いたいと思い、積み立て資金で投資信託を買おうとすると、今が本当に買い時か、もしかしたら明日の方が安いのではないかと気になってなかなか買うことができません。暴落した時でさえ、安くなっているとはわかっていても明日の方が1円安いかもしれないと気になってしまうものです。つまり、人間は投資をする際には相当なストレスを伴うことになります。それが、積み立てで投資をすることにしておけば、自分の気持ちに関係なく、機械的に購入してくれます。そして、長い積み立ての間に起こるマーケットの上げ下げの中でドルコスト平均法の効果も大きくなります。


 


非課税制度を使うのが有利


資産形成する上で、運用益から差し引かれるコストのひとつである税金がかからない方が手取り額は増えます。当たり前ですよね。そして国が資産形成を応援する施策として積み立てができて運用益が非課税となる制度が2000年以降増えました。


2014年にスタートした一般NISAでも積み立て投資は可能ですが、2018年にスタートしたつみたてNISAはまさしく、積み立て限定です。そして対象商品も金融庁が長期の資産形成に向いた分散投資ができる商品の基準を作り、それに合致した商品に絞り込まれています。その結果、はじめて投資をするという方でも長期・積立・分散ができると20代・30代の方に人気で口座を開設した方は472万人(2021年9月末時点)に達しています。


そして老後資産に資産形成目的が限定されるiDeCoは正式名称を個人型確定拠出年金といい2002年からスタートしていました。2016年までは加入=積み立てできる人が自営業や企業年金のない会社員だけに限られていたためほとんど知られていませんでしたが2017年に公務員や専業主婦まで加入できるようになると一気に認知されるようになりました。コロナ以降は自営業者の加入が増えたこともあって毎月5万人ほど増えていて、加入、つまり積み立てしている人は239万人(2022年3月時点)となっています。iDeCoは、定期預金などの元本確保型商品での運用も可能ですが、メイン商品は各金融機関が老後資産形成に向いた商品として選んだ投資信託なので、非課税メリットを受けながら積み立て投資することが可能です。


 


投資デビューはなるべく早く、少額で


ここまで、私が積み立て投資を推す理由は、一括投資で投資デビューすると取り返しのつかない大失敗になりがちだからです。


一括投資の代表的な資金源は退職金です。これまで日本人は一つの会社を勤め上げるという方が多かったですから退職金というのは相当な額です。手にしたことのない大金を目の前にすると、人間はできれば殖やしたいという欲が湧いてくるものです。そこへ金融機関から色よい提案があって、商品性を理解することなくすべてを預け入れてしまい、気が付いたら3割以上目減りしてしまって引退後の暮らし向きに影響が出てしまうというようなケースです。もし、定年までに、投資信託を買ったことがあれば、「何に投資しているのか」「どういうときに値上がりしたり値下がりしたりする商品なのか」や「最大どれくらい下がる可能性があるのか」といった質問もできるでしょう。しかし、投資したことがなければそういった質問すらできません。さらに一瞬元本割れしただけでビックリして売ってしまったり、売り時を逃したりということになりがちです。


投資や投資信託との付き合い方は、自らの経験を通じてしか体得できません。ちょうど、泳ぐことをいくら本や映像で学んでも、結局水に入ってやってみて自分なりの泳ぎ方が身についていくのと同じです。プロでなければ、自分なりの泳ぎ方でいいように、投資との付き合い方もその人に合った金額・投資対象などがあります。小さな金額であれば、失敗した時の痛手は小さくて済みますし、そこで学んだことはその先の運用に役立つ財産になります。そして早く始めれば、投資の経験、つまりマーケットと商品の関係性を見る目も養われ、良い会社への投資は時間をかけて大きな利益をもたらしてくれます。


投資を始めるなら少額の積み立てでデビューして、そして長く続けることを私はお勧めします。



大江 加代 確定拠出年金アナリスト
株式会社オフィス・リベルタス取締役。大手証券会社に勤務していた22年間から今日に至るまで一貫して「サラリーマンの資産形成」に関わる執筆・講演活動などを行っている。確定拠出年金には日本で制度スタート前から関わり、2015年にNPO法人確定拠出年金教育協会の理事に就任。月間10万人以上が利用する「iDeCoナビ」を立ち上げるなどiDeCoの普及活動も行っている。主な著書に「サラリーマン女子、定年後に備える」「iDeCoのトリセツ」がある。


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