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長期投資
投資家の仕事は “待つこと”
大江 英樹
経済コラムニスト

私が考える「長期投資」の本当の意味


投資は、短期的な利益を狙うのではなく、長期投資のスタンスで臨むことが大事だということがよく言われます。これは投資や運用の業界にいる人にとってはほぼ常識と言っても良いのですが、一般投資家の人たちがみんな長期投資をしているかと言えば、必ずしもそういうわけではありません。例えば投資信託の場合、日本経済新聞2021年4月26日の記事によれば、投資家が保有する期間は2020年末時点で全ファンドの平均が2.5年だそうですから、このぐらいの期間ではとても「長期投資をしている」とまでは言えなさそうです。
実際に我が国では1989年以降、長期にわたって株価が低迷する時期が続きましたので、投資家の立場からすると「本当に長期投資をしていて大丈夫なのか?」と思うのは無理のない話です。ですから単に「長期投資は重要だ」とか「投資は長期のスタンスで考えてください」と言うだけでは今ひとつ説得力に欠けるということもあるでしょう。


私は「長期投資」については、このように考えています。結論から言えば、「投資家の最も大事な仕事は “待つこと” である」ということです。身も蓋もないことを言ってしまうと、株は買ってもすぐに上がるわけではないのです。なぜなら株価というものは理屈で動くわけではないからです。株価は人々の感情やそれに基づく行動が引き起こす需給関係に大きく影響を受けます。いくらその企業の内容や業績が良くても、その価値を株価が常に正しく表しているわけではないのです。よく言われるのが、株価は企業の実態を映すけどそれは鏡ではなくて “影” であるということです。実体価値がそのままの姿で株価に表れているわけではないのです。影というものは上から光を当てると小さくなります。すなわち人々が先行きに対して悲観している時がこの状態ですね。逆に下から光を当てると企業の実体価値はより大きな影となって映し出されることになります。これがいわゆる人気が過剰になっている時、バブルの時に起きることです。
1930~50年代に活躍した米国の投資家でバリュー投資の父と言われるベンジャミン・グレアム氏は、その著書の中で「投資で本当に大事なこと」は次の3つだと言っています。

  1. 企業の価値は計測することができる
  2. その価値に比べて株価が安い時に買っておき、その乖離が埋まることによって儲ける
  3. そのために時間を味方につける

という3つのことです。


株はすぐに上がらないのが普通


投資の基本は実体に比べて影が小さい、すなわち株価が割安になっている時に買うべきだということを言っているのですが、問題は企業が多くの人に評価され、実体価値に合った株価になってくるまでの間、時間のかかることがあるということです。いやむしろ時間のかかることの方が圧倒的に多いでしょう。3ヶ月、半年ぐらいならまだ良い方で中には何年もかかる場合だってあります。でもこれは人気の無い時に買うわけですからすぐに上がらないのは当然なのです。投資家の中にはよく、「良いと思って買ったのに」あるいは「良いと言われて買ったのにちっとも上がらないじゃないか」と不満を言う人がいますが、そういう人はおそらく投資の本質がわかっていないと言っていいでしょう。いつ上がるかなんて誰にもわかりません。でも成長性や利益の実態がしっかりしている企業であれば、いずれその株価は正当に評価される時が来て上がります。したがって、「買ったけどちっとも上がらない」とぼやくのではなく、それまで “待つ” のが投資家の大事な仕事なのです。それが時間を味方に付けるということの意味です。つまり価格と価値が一致するまで待つことを厭わないようにすべきということであり、時間がかかることを良くないことだとして敵に回すのではなく、それを受容する(味方につける)ことができれば投資は成功するということを言っているわけです。


投資信託の本質は自分にはできないことをやってもらうことにある


でもここで1つの大きな問題が出てきます。グレアム氏は「企業価値は計測できる」とか「株価が割安の時に買えばいい」と簡単に言いますが、それがどうすればわかるのか?ということです。そのためには企業の財務分析、そしてその内容を判断する知識と能力が必要です。すなわち株式の長期投資で成功しようと思うのであれば、単に当てずっぽうで投資をしていてはだめで、自分なりにきちんと勉強することが必要です。でも普通に生活している個人が慣れていない企業の財務分析などやろうとしてもできるわけはないでしょう。であるなら、次善の策としては投資信託を活用するということです。


投資信託の本質は「自分にはできないことをやってもらう」ということにあります。投資信託の運用手法として、「インデックス型」と「アクティブ型」がありますが、自分では銘柄の研究や財務分析ができないということであれば「アクティブ型投資信託」を購入することで、それらの分析を専門家に委ね、運用を任せるというのも方法です。また、インデックス型の投資の場合、世界中の株式を全て自分で買うことは不可能ですから、投資信託という器を使うことで実現することが可能になります。インデックス型の場合は、個別企業を選別して投資するわけではありませんから、“待つ” ことなんかない、と思われがちですが、実はインデックス型もグローバルな世界経済の成長を “待つ” という点では同じことなのです。


株は上がればどこかで必ず下がりますし、下がればいずれは必ず上がります。その動きに振り回されて売買をしてもうまくいかないことが多いでしょう。短期的な株価の動きは酔っ払いの千鳥足(ランダムウォーク)のようなものですから全く読めません。投資で収益を得る本質は「価格」と「価値」の乖離が埋まることであり、そうなるまで “待つ” ということが投資家の一番大切な仕事だということを覚えておいていただきたいと思います。



大江 英樹 大手証券会社で25年にわたり個人の資産運用業務に従事した後、2001年10月の制度開始以来、確定拠出年金の投資教育等の業務に関わる。2012年9月にオフィス・リベルタスを設立。行動経済学、資産運用、企業年金、シニア層向けライフプラン等をテーマとし、各種マスコミや媒体への寄稿や書籍の執筆、各地でのFP向け研修や投資家向けの講演を行う。日経ヴェリタスに連載する「人生百年こわくない」をはじめ、行動経済学を題材とした執筆も多く、読者も拡大。CFP (日本FP協会認定) / 1級ファイナンシャルプラニング技能士 / 日本証券アナリスト協会検定会員 / 行動経済学会会員 / 日本FP学会会員。


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