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ロシア・ウクライナ紛争:グローバル経済にとっての脅威とは
ロバート・ リンド
マクロ・エコノミスト

ロシアによるウクライナ侵攻の激化と拡大は、世界的な問題として波及し、多くの人々に壊滅的な影響を及ぼしています。本稿では、この紛争による市場や経済への潜在的な影響について考察します。


ロシアのウクライナ侵攻に対し、欧米各国は迅速に行動しました。経済制裁の発動が大きく報じられていますが、今回の危機には、世界経済により大きな影響を及ぼしかねない問題がほかに2つあると考えられます。第一は、1バレル=100ドルを超える原油価格の高騰です。2014年のロシアのクリミア侵攻など、過去の地政学的リスクが高まった局面を振り返ると、原油価格の上昇は世界の経済活動にとって重石になってきたことが分かります。


欧州視点でより深刻な懸念は天然ガス価格の動向で、すでに急上昇しています。これは、ロシアからEU (欧州連合) への天然ガス供給に大きな支障が生じるとの懸念を織り込んだものです。地政学的に不安定な状態が続けば、天然ガス価格はさらに上昇する可能性があります。特に、ドイツやイタリアといった経済大国にとって大きな問題となるとみられます。


欧州主要国は以前にもエネルギー価格の急騰を経験しています。原油価格は消費者物価に速やかに反映される傾向がある一方、天然ガスの卸売価格から小売価格への転嫁は、特に消費者の負担軽減のための政府支援策が導入されている場合もあり、国によって状況が異なります。最近の天然ガス価格の上昇は、今後数ヵ月かけて消費者物価に反映されると考えられます。


株式市場はこれまでも地政学的リスクを乗り越えてきた

2022年1月末現在。対数目盛。指数は配当を除くプライスリターンベース。

出所:Refinitiv Datastream、Standard & Poor’s、キャピタル・グループ

ロシアからドイツへの新しい天然ガスパイプライン「ノルドストリーム2」について、ドイツ政府が承認停止を発表しましたが、これは稼働前であるため、供給への直接的な影響はありません。しかし、ロシアが報復としてEUへの輸出を制限すれば、欧州の供給にさらに重大な支障が生じる可能性があります。これはロシア経済にとっても打撃となりますが、ロシアはそうした事態に備え、外貨準備を積み上げています。


第二の喫緊の課題は、コモディティ価格の高騰が金融政策にどう影響するかです。


インフレ率の上昇と成長率の低下につながる「負の供給ショック」が再び発生する可能性があります。FRB (米連邦準備制度理事会) とECB (欧州中央銀行) は、金融市場とコモディティ価格の反応を見極めながら、金融引き締めプロセスをより慎重に進めると考えられます。最終的にFRBは利上げを実施する見込みですが、そのペースは1週間前の市場予想と比べて緩やかになると考えられます。


また、欧州各国政府は、エネルギー価格上昇対策として数カ月にわたって実施してきた家計や企業への支援策をさらに強化すると予想されます。深刻な供給不足と大幅な価格上昇が起こる最悪のシナリオでは、政府はエネルギー使用を制限し、影響を受ける企業や産業に対する補償を行うことになるかもしれません。


欧州主要国では、天然ガスの短期的な供給途絶や価格変動には対応できるものの、中期的なエネルギー供給確保に対する懸念が高まっています。供給途絶が長期化し需要が引き続き堅調であれば、春から夏にかけてEUが天然ガス備蓄を回復させることが困難になるとみられます。


欧州各国は脱石炭火力政策をとっているため、天然ガス需要は拡大しています。ドイツでは2022年末までに残りの原子力発電所を閉鎖することも決まっています。欧州各国では、代替エネルギーの開発を推し進めるよう圧力が高まると考えられます。しかし、実現には時間を要するため、欧州はロシアとの関係悪化に対して脆弱な状態が続きます。



ロバート・リンド マクロ・エコノミスト。業界経験年数34年。入社以前は、ABNアムロにおいてマクロ・リサーチ・ヘッド、アングロ・アメリカンにおいてグループのチーフ・エコノミストを務めた。